Last Supper, Last Song #2


Music by Ambrosia “Biggest Part of Me”

音楽でも聴きながら。

 

地球での仕事を終え、空へと自分の魂を送る時のBGMを選ぶのもまた「最後の晩餐」同様究極の選択。さて2017年3月25日現在、あなたは何を選ぶ?

 

遡ること大学3年の春。付き合い始めて半年の恋人テイは、よく晴れた日曜の朝に私を呼び出すことが多く、週末の朝はたいていセントラルパークの散歩から始まった。

9時少し前。セントラルパーク・ウェストを下っていくと、パークの入口でテイが左の肘に買い物袋を提げSunday paperを読んでいるのが見えた。新聞で顔が隠れていてもすぐに分かったのは、彼の履いていたティールグリーンのブリーチを私が気に入っていたからだ。

「遅れたね、おはよう」
「元気?オレも今来たとこだよ」

新聞をたたむと彼は買い物袋の中を見せて「ブレクファスト」と笑った。りんご2つとスナップル(瓶入りのフレーバード・アイスティー)のピーチティー2本がこの日の二人の朝食となった。

パークには動物園やカルーセルなどのアトラクションがあるほか池でボートを漕ぐこともできるが、私たちが好んでしていたのは橋巡り。セントラルパークには30以上の美しい橋やアーチがあり、おしゃべりをしながらそれらを渡ったり下をくぐったりするだけでも楽しめる。最も美しい橋のひとつ、1862年に造られたBow Bridgeの欄干には気品があり、ぼんやり眺めていると、日傘を差したドレスの貴婦人や馬車に乗る紳士、100年以上も昔の風景が浮かび上がるようだ。映画の撮影などにも登場する。

bow-bridge-amidst-changing-leaves
 

テイと私はりんごを片手に時折シャクッとかじりながら橋を渡り、2時間も歩いただろうか、疲れた頃、近くの芝生に腰を下ろした。

学校の話などしていると、すぐそばでピクニックをしているカップルのラジオからこの曲が流れてきた。

You’re the biggest part of me
You’re the life that breathes in me

And I’ll be your savior to you
For the rest of my life

するとテイが突然、私の目をじっと見つめたまま歌い始めたのだ。

両手を胸に当てて大声で歌う彼の姿を周囲は笑って見ていたが、私の心の野原には一斉にピンクやイエローの花が咲き始め、小川のほとりからはきらきらと輝く極太の虹がハープの音色とともに緩やかなカーブを描いて延びていく。さらに私のおめめからは金色の星が次々とこぼれ落ち、脳天からは独立記念日級の花火がバンバンと打ち上がっていたはずだ。

私でなくても、20代女子なら誰だって”rest of my life(一生)”なんて言葉を投げかけられたらときめかずにはいられない。

テイは私を「恋する乙女」に化かし、それからまた1時間歩く間、絡ませた彼の指先まで「私のものだ」などと思い過ごしながら、ランチをしようと街へ出た。

別れ際、CDショップに寄って二人でAmbrosiaのアルバムを買い、この日からBiggest Part of Meは私たちの歌になった。

そうして学年末が訪れ最後の試験が終わると学生の殆どが実家へ帰っていく中、テイが、
「帰らないで旅行にでも行かない?」

この誘いを振り切った私が悪いのだ。
「なるべく早く帰るから」と言い残したまま10週間も実家で過ごす間に、テイには別の’Biggest Part of Me’でき、私たちの可愛らしい恋が続くことはなかった。

 

随分と長い時が流れて今、隣で眠る夫の鼻先をぐりぐりつまむとどんな夢を見ていたのか「爆弾だー」と大声を張り上げてまたすやすやと寝息を立てる。こんなひとときにこの上ない幸せを感じながらも、この曲を聴くたびあの日の胸のときめきが色褪せることはない。

私はきっと、テイに恋していた以上にあの瞬間と、イノセントで明るく愚かだった私自身が愛しくてたまらないのだ。青春時代はいつの日も、心に新鮮なレモンをキュッと絞ってくれる。

これから先、unforgettableな思い出はまだまだ無数に待っていて、人生最後の数分に聴きたい曲も変わっていくのかもしれない。

けれど2017年3月25日時点、私のLast Songは”Biggest Part of Me”。
この曲と一緒なら、間違いなく幸せな気分で旅立つことができそうだから。

 

Ambrosia:
1970~80年代「ヨットロック(ウェストコースト・サウンド)」と呼ばれるソフトロックのジャンルで人気を博したカリフォルニア出身のロックグループ。
“Biggest Part of Me”は1980年にリリースされBillboard Hot 100、アダルトコンテンポラリーチャートでそれぞれ3位を獲得しAmbrosia最大のヒット曲となった。
彼等を代表する名曲は他に“How Much I Feel” “You’re Only Woman(You and I)”など。