Emperor Gold Mystery


“I Will Survive” by Chantay Savage

 

11

 

あの夜は始まりからおかしかったのだ。

ミッドタウン・マンハッタン、午後6時。

徹夜明けで疲れていたのもあるとは思う。サロンの予約時間を間違え諦めて出てくることになったり、夫の仕事が終わるのを待つカフェで、注文したヴィエナ・コーヒーの代わりにココアが運ばれてきたり、店を出る時7ドルのコーヒーに10ドルを差し出したらおつりの3ドルに10ドル札が1枚紛れていたり(自分の名誉の為に申し上げておくが、この10ドルはその場でお返しした)。

どうも調子が狂っていると思いながら、普段どおりSheratonのロビーで夫を待ち、その後仲間4人と合流、メキシコからハネムーンでニューヨークにやってきた友人夫婦を囲んで食事。ダウンタウンへ行った。

お祝いということもあって、全員食事の席でけっこうな量のワインを飲み、終わって彼等を見送ると午後11時を過ぎていたのではないだろうか、その時ミッドタウンに戻っていたのだが、地下鉄に乗ったのかタクシーだったのか、もうそのあたりはぜんぜん覚えていない。Broadwayか6th Ave.の57丁目から南へ歩いて行ったように思う。

2

誰かが「飲み直そう」と言い、その時一緒にいたメンバーの半分がこう覚えているので確かだとは思うのであるが、おそらく何の理由もなくNovotelのラウンジに向かった(はずだ)。

小さなバーラウンジのストゥールに着くと、皆でBudを頼んだ、かも。

すると、これだけは覚えているのだが、東洋系のバーテンダーが言った。

「お金は要らないから、これちょっと飲んでみない?」

取り敢えず口直しにと水を勧められて、皆してグラスの水をひと口ふた口飲んだ。それから彼は見たこともないラベルの(申し訳ないがまったく記憶にない)ビアを運んできて私たちの前に置いた。

「僕が造ってるビアなんだ」

名前は確か「エンペラー・ゴールド」。中国の何とかという場所に水のとても美味しい場所があり、そこの水で造ったと言っていたような気がするので、彼はチャイニーズ・アメリカンだった可能性が高い。

冷たい水でワインの残り香をもう一度さらい、あらためてグラスの中のビアを見てみると、非常の細かな泡と薄い金色が上品でとても美しい、と思った気がする。

キンキンに冷えたエンペラー・ゴールドをのどに流し込むと、一瞬酔いが醒めた。実においしいのだ。ホップのえぐみや余計な風味はまったく感じられず、滑らかですっきりとした後味と鼻先から抜けるフルーティな香りも極上だった。何となくではあるが、アメリカ人なら誰もが大好きなMiller Genuine Draftを更に爽やかにして、1664の繊細な香りを加えたようなお味だったように思う。大量のワインなどすっかり忘れて、タンブラーのビアを最後までおいしく飲み干した。

私が覚えているのはここまでだ。

4

週末にまた昨夜と同じメンバーが集まると、あのビアの話になった。口火を切ったのは確か夫だ。

「それにしてもうまかったよね、エンペラー・ゴールド」
「え?」「は?」「へ?」

誰も覚えていなかった。エンペラー・ゴールドを勧められたことも、バーテンダーと話をしたことも、Novotelのバーに立ち寄ったことすらも。

覚えているのは夫と私だけで、あとの4人は酔い潰れた状態だったのか、あの夜のディナーからあとの記憶がないと言う。結局この話がこのあと6人の間でされることは二度となかった。

2

それから夫と私はエンペラー・ゴールドを思い出しては探してみたが、あれから15年、まだ見つかっていない。あの味だけでも忘れないよう、近い味と香りを求めて世界中のあらゆるビアを取り寄せては飲み続けてきた。けれど残念ながら「これかも」と思えるものにも出会えていない。

かなりの確率で私たちは、エンペラー・ゴールドに辿り着くことはないだろう。むしろあれは夢だったような気さえする。けれど脳裏に小さくとも残る限り、まだまだ探し続けるつもりだ。

どなたかあのすっきりとキレの良い、デリケートなエンペラー・ゴールドに巡り会ってらしたら是非Katieまでお知らせいただきたい。そして教えてください、どこで出会ったか、そしてそれは本当にエンペラーゴールドか。

 

 

 NYC photos by Ben Dumond
Beer photos by Katie Campbell / F.G.S.W.