Reminiscence ~ 思い違いの贈りもの


“Nothing’s Gonna Change My Love for You by George Benson

 

 

人は思い出の多い時代に触れたものをいつまでも忘れないものだ。それが文学であったりファッションであったり。音楽や香りなどは特に深く心に刻まれる。

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1980年代をハワイで過ごした。あの頃、MTVやラジオから流れた歌には今よりもっとメロディアスでストレートな純愛を歌ったものが多かったように思う。今日のこの歌も同様だ。

1985年にリリースされたジョージ・ベンソンの”Nothing’s Gonna Change My Love for You” は世界中で大ヒットし、ホノルルのカラオケバーでも恋人に捧げる歌としてそれはそれはひと晩に何度も聴かされたものだ。

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確か、Hawaiian TelephoneかどこかのCMになっていたのではなかったか、とハワイを離れワシントン、ニューヨークへと移ってからもずっと勝手に懐かしんでいた。

私の中ですっかりHawaiian TelのCMソングとして定着し、「ハワイアン・テルの歌」という固有名詞化すらしてしまったこの歌に特別な思い出があったわけではないが、朝学校へ行く前に耳にし、学校から帰ってきてTVやラジオをつけると流れており、そのたび心地良く耳に響いた。

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あれから30年以上が経ち、今日ふと気になって調べてみるも、どうにもこの歌がCMソングであったという事実が出てこない。そう言えばジョージ・ベンソンの後、ハワイ出身のポップアイドル、グレン・メディロスがカバーしていたが、私の記憶の中では彼のバージョンではなかった。

午後に入るとますます気になって用事を済ませるなりデスクに着き、YouTubeで探してみると「こ、これではないか」という動画がひとつ見つかった。

ジョージ・ベンソンの”Nothing’s Gonna Change My Love for You” と間違えていた Hawaiian TelのCMソングはこれだった。

もう会うこともないだろうという人との奇跡のような再会にも思えた。

これを見た途端、私を乗せたタイムマシンが宇宙の渦に巻き込まれて瞬時に80年代へと遡り、懐かしい人たちが次々と現れ、この歌と今はなきCMの中のGina Jenkinsの爽やかな笑顔を見なければきっと還ってくることもなかったであろう楽しい友の笑い声や、部屋でひとり流した涙までもが私の心に戻ってきた。

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学校が終わって家に帰ると、私はよくリビングルームの窓際に座って冷たいフルーツパンチを飲んだ。金曜の夕方などその窓からワイキキ沖に出ているたくさんのヨットとダイアモンドヘッドを暮れゆく夕陽が赤く染めていて、グラスの中のパンチと同じ色だと思いながら眺めていたあの光景がこの曲とともに浮かぶ。

恋人との間に別れ話が出た夜、彼の親友がワインクーラーとKFCのフライドチキンを山ほど持ってやってきて、やけ食いしながら泣いたり怒ったり、朝まで半狂乱で踊っていた時もこのCMが流れていた。

夕方、母とアラモアナ・センターへ買い物に行った帰りの黄昏時の空や、その夜食べたTVディナー(マイクロウェイブでチンしてでき上がるディナープレート)、当時アラモアナ・センターのスーパーマーケットでしか手に入らなかった絶品オニオン・ブレッドの味まで蘇って、もう二度と戻ってこないあの時間を思い胸が何度も何度も締めつけられた。

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どこかで、何らかのかたちで記憶のすり替えが起きたのだろう。ジョージ・ベンソンとCMの温かい声が重なったか、それとも単にどちらも毎日5回も10回も聴いていたからなのか、今の私にはもう判別がつかない。が、いずれにしても、ジョージ・ベンソンの歌とこのCMソングの持つ思い出はまったく違ったものだったということが分かったし、愛して止まないハワイ時代を彩る2つの歌が手に入ったことをとても嬉しく思っている。

遠い過去に置き忘れてきた美しい思い出が、間の抜けた私の小さな勘違いが返してくれたものだったのだと思うと、昨日までの私自身にもほんの少し感謝したい気持ちになった。

それにしても、”Nothing’s Gonna Change My Love for You” に特別なメモリーがないということは、あれだけカラオケバーで歌われていたにもかかわらず当時私の為に歌ってくれた人はいなかったということであり、そう思うと今更ではあるがちょっと面白くなかったりもする。