Moments #9: Life-Changing Dawn

 

朝陽を見るために、上級トレイルのノース・リム (North Rim)を選んで深夜グランド・キャニオンに入った。

ロッジで一夜を明かし、空の色が変わり始めると外に出て先端のビュー・ポイントへ向けて歩き始める。道には落下を防ぐフェンスもなく、細いトレイルの端から下を覗くと言わずと知れた断崖絶壁だ。どうしてこの道を選んだのだろうと今更に情けなく悔いてみたりする。

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けれども細い道の内側を選ぶなどはあえてせず真ん中を歩いていくと、どのくらい歩いたのかは記憶になく、気が付けばビュー・ポイントに辿り着いていた。

規則正しいうねりを見せているブライト・エンジェル・フォールト (Bright Angel Fault) は活断層。日中に見るグランド・キャニオンは化石の町に見えるが、今も小さく震えながら生き続けていることを知る。

私たちを包む世界は青一色に染まり、時が止まったように風の音さえ聞こえない。じっと目の前の景色を見つめていると、私の人生など、この広い世界の中では小さな流れ星が落ちるほどの、一瞬のできごとなのだろうと思う。

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空が白んできた。

ここでサンライズを待つ人たちはみな、祈るような気持ちで佇む。

さっきまで蒼ざめていた世界はいつの間にか温かみを取り戻し、いよいよ新しい一日の訪れを迎えようとしている。

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この瞬間、感動・歓喜の声を上げる人はいなかった。太陽は誰の頭上にも等しく、普段と同じように昇るのに、見たことなど一度もない、まばゆい輝きにただ圧倒され、目を閉じると頭の先から足の先まで浄化されるような神聖な気持ちに満たされた。

すると、昨日までの悩みやわだかまりのしこりが心地良いクラック音とともにひび割れて消えていき、古く硬くなった心を新しいものと取り替えたような気分。

思いきり空気を胸に吸い込むと、さっきまでただ立ち尽くしていた4,5人も美しい朝を笑顔を迎えていた。

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太陽が岩山を離れ空に浮かぶと、周りの景色は偉大なるグランド・キャニオンなのにホームタウンのいつもの朝と同じ景色に見えた、空も岩肌も針葉樹たちも。

ただ人の心は昨日までのそれとは違っている。古く固まった心はこの崖で朝陽が風化し、みずみずしく生まれ変わったから。

自然は私たちに何も求めない。けれど私たちは自然の力を借りて今日も明日も、迷わず進んでいく。自然に身を委ねることは一種の信仰であるのだろうと、すっかり明るくなった足元と雄大なグランド・キャニオンの景色を交互に見ながら下界へと戻っていった。

 

 

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