テキサス恐怖症 ~ Texasphobia

“Why Can’t We Be Friends” by WAR

 

 

北米大陸横断決行中、何度となく訪れる「中だるみ」。前回アリゾナで「中だるみNo.8」に襲われた話をしたが、あんなの実は、かわいいものなのである。

ニューヨークからロスアンジェルスまでの旅で最も長くツライ中だるみをお見舞いしてくれるのが、696.241k㎡の広大な面積を誇る私たちの宿敵、テキサス州である。

総面積83.425k㎡の我が北海道と比べると、「でっかいどう・ほっかいどう」なはずの北海道が8個すっぽり入ってしまう大きさということになり、計算してみて驚きを新たにした。

テキサスの旅はヒューストンから始まり、途中ダラス近郊の友人宅で優雅な2泊を過ごさせてもらった後再び走り始めた。

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大王テキサス、悪いことばかりではない。その広大な土地を、渋滞や信号に止められることもなくただひたすら走り続けるのは快感であり、地球を手に入れたようで気持ちも大きくなるものだ。

「ここで油田でも探すか」「来年の今頃は石油王だ」

NYに帰れば思い出しもしないこんなことを言ってみちゃったりもする。

そしてテキサスはホームに誇りを持っているなと思う。ファーストフードのデイリー・クイーンに立ち寄ると、どこにでもあるデイリー・クイーンではなく明らかに「テキサスのデイリー・クイーン」を主張している。

ちなみにここでスナックタイムをとるのは2度めだったが、相変わらず客はいなかった。

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カントリー・ライカーならちょっとダイニングルームに取り入れてみたくなるデザイン。

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エキストラ・ラージのドリンクカップはお土産にもなるかわいらしさ。飲み終わった後レストルームできれいに洗い店から持ち出すも、次の州に入るなり「じゃまだ」と夫に捨てられてしまった。

私たち夫婦にはこうしたケースが多々ある。今も忘れられないのは私が自分で絵付けしたクリスマスのオーナメントボール。「また描けばいいでしょ」を理由にまとめて捨てられてしまったが、これだけは今も少々恨んでおるぞ、夫。

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とは言え仲良し夫婦はここまでの旅のおさらいなど話しながらぐんぐん西へと進む。

特筆すべき風景などない為、途中小さな家や牧場のサインなど見ると安心する。何しろ平坦な土地は何マイル先まで見えているのか分からないが、途中ふと宇宙のどこか小さな星にとり残されたような気持ちになるのだ。

家も牧場もあっという間になくなって、青い空と緑の大地をただ駆け抜けていくだけだ。景色に疲れることなどあるはずもないとお思いかもしれないが、何時間走っても同じ場所にいるような錯覚は「つまらない」を飛び越えて恐怖感をもたらすものである。

「ねえ、大丈夫かしら、テキサスから出られるのかしら」

真剣に夫に尋ねると、安心させてくれればよいものを無情にも「実はちょっと不安」。

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唯一の救いはこれ。テキサスを通り抜けるうち何度となく目にするパンプジャックは油井の掘削機。広大な農地や野原のみならずこれもまたテキサスを代表する光景。なかなか味がある。

パンプジャックに叫んでしまったりもする。どうせ通る車もないことだし、手なんか振ったりもしてしまう。することも話すこともないものだから、この頃には旅にありがちな大胆行動がおかしな方向へ傾いている。

「ありがとう、私たちの目の前に現れてくれて、ありがとう」

けれどもう、奇行さえも億劫になって、二人じっと前を見据え走るだけ。テキサスを侮っていた。と言うよりテキサスを避けて別の州を通り過ぎてくればよかったと猛省するのだった。

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ラジオからWARの “Why Can’t We Be Friends” が流れてくる。まさにテキサスへ訴えかけたい歌である。歌詞の意味などおかまいなしに、会話を失った愚かな夫婦は大声を張り上げこの歌を合唱しながら暮れゆく夕陽に向かって走り続けた。

決してテキサスがフレンドリーでないということでなくこっちが精神崩壊を起こしかけているだけであるが、どこまで行っても同じ景色、どこまで走ってもニューメキシコまであと何マイル、なんて出てこないのだから仕方ない。

山もなく、小さな丘も川もなく、ただずーっと平地が広がっているだけのテキサス。この我慢比べ、とっくに私たちの負けは決まっていた。

テキサスは、直進する迷路だ。

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日が暮れてもやっぱり同じ風景。ああもう耐えられない。とうとう私は、長時間愚痴も言わず運転し続けている夫へ決して言ってはいけない言葉を発してしまった。

「飽きた」

更に悪いことに、配慮のない妻はこのひと言を吐き捨てるなり、図々しくも寝落ちたのだった。

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どこだったか、日記でも出してこなければ思い出すことができないが、おそらく小さな町のモーテルで1泊でもして翌朝またしばらく走ると、ようやく「ようこそニューメキシコへ」のサイン。テキサス滞在ほぼ4日。この時点で私はもうニューメキシコが大好きになっちゃった。

さすがの夫も「次はテキサス抜きね」。私は夫に握手を求め「ありがとうありがとう」と何度も言った。

さらばテキサス。もう当分おぬしに会うこともなかろうが、中だるみの苦しみと敗北感を忘れた頃、今度は何か強力なマンネリバスターを引っ提げて再度挑む。

 

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