Photograph

  “Photograph” by Nickelback

This is a little story that actually happened during our journey from home in New York to Los Angeles; about the fleeting friendship among me, my husband and this guy named Joe met at an auto repair shop in New Mexico and also about a picture disappeared a year later from the bar we had some drinks together.

長い旅の途中には、景色の移り変わりだけでなく思いもよらない見知らぬ人との出会いがいくつもいくつも待っている。だから一生、止められない。

地獄のテキサス脱出を果たした頃、我が家のポンコツ、いや疲れ果てたBMW325isはエアコンの調子を崩し、日中35℃を超えるアメリカ南西部を走るには辛くなってきた為、ニューメキシコに入るとオートリペアの店を探して見てもらい、その間私たちもしばしの休息を取っていた。

1 - コピー

店の外、ベンチに腰を下ろして眠りを誘うカラッとした夏風に目を閉じていると、中からオイルチェンジに来たというおそらく同世代の男が出てきて夫に話しかけた。

「なあ、あれニューヨークのプレートじゃない?ニューヨークから?」
「うん、家からL.A.まで車で旅してる」
「いいね、カッコイイなあ」

2

ジョーと名乗ったその男は夫の隣に座り彼のオイルチェンジが終わるまで話し込むと「今夜飲まないか?従弟」と誘い、近くのバーのアドレスを書いて渡すと「じゃあ今夜」とフロントの赤いトラックに乗って去って行った。人も良さそうだし土産話のひとつになりそうだと、私たちは行ってみることにした。

午後8時、店へ行くと彼は既に上機嫌で、私たちを見つけると大きく手招きをした。ジョーはこの店の常連で、オーナーは彼に言われるまま私たちにビアと店自慢のオニオンリングを山ほどプレートにのせて持ってきた。

「修理屋の出会いに乾杯!」冴えないなあと、オーナーを交え4人で笑った。

この夜、ジョーは私たちをまるで幼馴染のようにニックネームまで付けて呼び、壁に留められた彼と恋人デビーの頬を寄せて笑っている写真を指差して「結婚しようと思ってる。それには一攫千金、大きく当てないと」そんな大きなことばかり言っては夫にニューヨークでの私たちの暮らしぶりをやたら細かく尋ねていた。「いっそデビーを連れてニューヨークへ行こうかな」とも言っていた。

「いつまでもそんなこと言ってるからデビーが本気にしないんだぞ」オーナーは彼等の一部始終を知っているようで、その言葉から彼が大陸横断などしているのんきな夫婦に興味を持った意味が分かった気がした。

ジョーの夢物語は突拍子もなく、あと1時間も聞いていたら「大統領になる」とでも言いそうなほど浮世離れしており、それを楽しく聞いていたもののデビーが彼との結婚に踏み切れないでいる気持ちも、同じ女として理解ができた。けれど夫と私の人生も振り返れば、大学を出て就職、結婚までは同じでも、出産、子育てという一般的な幸せを通り道としているわけではないからどちらかというとジョーと同類ではないかと思ったりして、午前2時まで私たちは大いに盛り上がった。

そろそろ帰ろうと席を立つとジョーが言った。

「いつかまたここで会おうぜ。その時はこの写真、デビーはウェディングドレスを着てるはずだ。ベイビーも一緒に写ってるかもな」

じゃあいつかここで結婚祝いに飲もうと約束し、私たちは別れた。

8

ちょうど1年後、友人が展覧会を開くという知らせを受けてサンタフェを訪れた際、ジョーの言葉を思い出してあの夜のバーを訪れた。オーナーは私たちを覚えていて「よく来たね」と冷たいビアを1杯ごちそうしてくれた。

「あ、そうだ」私はジョッキを右手に持ったまま、ジョーとデビーのウェディングを想像しながら1年前に座ったカウンターの前に立った。が、どこを見回してもウェディングはおろか、彼が自慢していたあの写真さえ消えていた。

9

「うまくいかなかったんだ」オーナーは私が彼に尋ねる前に、私が何を言わんとしていたかを察して答えた。デビーはやはり、ジョーが定職についていないことを理由に結婚を断ったのだと。そしてその夜ひとりで店に来たジョーは無言で壁から写真を取り外すとちぎるように小さく破ってアッシュトレイに投げ入れ、吸っていたタバコを押しつけて出て行ったきり、戻ってこなくなったのだと教えてくれた。

いい話を聞けると思ったのにと肩をすくめると、オーナーから意外な答えが返ってきた。

「あれが彼女の愛し方だったんだ。デビーはきっと、ジョーを成長させたよ。彼女と一緒になってたらジョーはきっと今も夢を見てるだけの男さ。今ごろどこかで地道にやってるだろうよ。だからここに戻ってこられないんだろ、でかいことばかり言ってたからな」

ジョーは恋を失いはしても、デビーからもラリーというこのオーナーからも愛されていた。その後の彼を知らずともきっと良い人たちに囲まれて、幸せから見放されることはないだろうと私は胸のすく思いで夫と二人、店を出た。

4

町のオートリペアショップで出会った日ジョーが乗っていたのと似たトラックを見ると今もつい目が追いかけてしまう。

「いつかまた会える気がするよ」こう笑ったジョーに、おそらくもう会うことはないだろう。でもねジョー、ありがとう。私たちはあの夜の楽しいひとときを決して忘れない。そして今はデビーよりもっと、あなたの優しさを心から求めてくれる女性と結ばれてその人を幸せにしてあげていると、私は信じてるよ。