息子と犬と危険回避

先日、家でPCに向かって仕事をしていると表から「ウォーーー!!」という動物の咆哮にも似た叫び声を耳にした。

興奮した若者が騒いでるのか、静かな住宅街の中で珍しいなと意外に思いつつ画面に再び目を向けると、ドンドン!という激しくドアを叩く音とドアベルを連打する音に飛び上がって反射的に玄関に走った。

するとドアのステンドガラス越しにサッカーの練習から帰宅した次男が

「Help!! Help!! ○×△★~!!」

と言葉にならない慌てぶりで叫んでるではないか。

急いでドアを開けると、人間怖い目にあうとこんな膝が震えるんだと感心するほどに、ガクガク膝を震わせ真っ青な顔の次男が飛び込んできた。

「い、犬が・・・」安堵と恐怖でワーっと泣き出した息子。

外を見て茶と黒の体長1m近くもあろう大型犬が尻尾をひるがえした後ろ姿を確認した。

たまたま主人も在宅中だったので、何ごとかと話を聞いたら、サッカーの後友だちの父親に車で近くまで送ってもらい、歩き出したところ停まった車の陰から大きな口を開けた大型犬が飛びついてきた。振り払って恐怖で叫びながら10mほど先にある我が家に向かって走ると後を追ってきたと言う。

噛まれていないか確認している間、主人が急いで表にその犬を探しに走った。

数十分後、帰ってきた主人に尋ねると

「ジャーマンシェパードが通りにいたところを、さっき近所の人がドッグトラスト(迷子の犬や動物を保護してくれる施設)へ連れて行った。たぶん迷子になっていたんだろう」

とのんきに言う。小さな頃大型犬を飼ったことのある主人には、そう大したことに映らなかったようだ。

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いやいや・・・ジャーマンシェパードと言えば警察犬で知られ成犬だと30~50kgにもなるというじゃないか。

ちらっと見たところ息子の胸の高さまでなろうかという大きさであった。賢い犬だと聞いてはいるが、大きな口から見える長い舌と鋭い歯はじゃれていたのだとしても、犬を飼ったことのない息子にとって初めて経験した恐怖であったろう。

イギリスではどのペットにも体内にマイクロチップが埋め込まれている。ペットは生後8週間以内に獣医によって処置することを義務付けられており、もしつけていない犬を飼っている場合、飼い主には£500(70,000円ほど)の罰金が課せられるという政府によって定められたもの

迷子であった場合、届けられると施設の専用リーダーで読み込みすぐ飼い主の居所がわかるようになっている。今回もすぐに飼い主が施設に駆けつけるだろう。

素晴らしいシステムだと思うが、施設から怖い目にあった相手に対して別に「飼い主が見つかりましたよ、怖がらせてすみませんでした~」などと連絡してくれるということはない。

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今回に限らず犬が飼い主を伴わずウロウロしているのを見たのは初めてではない。私も以前、黒い大型犬に追いかけられたことがある。

襲ってきたらと恐ろしく「冷静になれ、走るな」と心の中で己に言い聞かせてはいるものの頭は真っ白、自宅ドアの鍵を開け中にそっと滑り込むまでそれは恐ろしかった。他にも何度か迷子犬を保護したこともある(私は小さい頃のトラウマがあるので小型犬のみ!)。

なぜ飼い犬が迷子になるのか。日本のペット飼育率が3世帯のうち1世帯に対して、イギリスでは44%とほぼ2世帯に1世帯はペットを飼っているという統計がある。1世帯につき複数匹飼っている人も多く、その数は相当になるだろう。

通りを歩けば、犬を散歩させる人々を本当によく見かける。またこの国では犬をリードで繋ぐことを推奨しているものの、公園では時折小さな子どもたちよりも大きな犬が自由に走りまわっているときもある。天気の良い日は開け放したバックドアからふらりと出て行く犬もいるのだろう。

こんなにも動物愛護国のイギリスだが、学校では不審者から己を守るハウツーは習うのに、犬から身を守る方法は教わらない。最近日本のニュースでも犬の噛み付き事故について耳にしたが、この国だって例外ではないと思う。

どんなに賢い犬でも、こちらがその習性を知らなければそういった事故が発生しないとも限らない。今日のようなシチュエーションにどう対処するのか改めて考えねばと感じた。

米国疾病予防管理センターでは、パニックになって犬を怖がらせたり驚かせたいしないことを基本とし、大きな声を上げたり(息子はこれがまずかった!)しないことを薦めている。

危険と思われる犬には直接目を合わせないようにゆっくりとした動きで、急所である顔や喉・お腹をできるだけ守り、指を食いちぎられないよう手を握る。防御は前腕で行い、押し倒されたら両手を首の後ろに回して膝を折り丸くなること。

飼い犬であっても人間がパニック状態で接すると、犬もさらに興奮し攻撃性が高まる。こういったことを子どもたちに話しておくのも悪いことではないと思った。

ここまで書いてナンだが、私はけして犬が嫌いなわけではないし、迷子犬を出してしまった飼い主に対して避難する気持ちもまったくない。ただ少し大きくなった子どもたちが自ら外に出て行動することが増えた今、怪我の功名ともいうべきか知らなかったことが学べ、かえって良い経験になったと感じる。

とにかく今回ホッとしたのは、息子がその後犬嫌いにならないで済んだこと。今でも散歩する可愛い犬を見かけては飼いたい、と羨ましがる。いつか自分のことがキチンとできるようになったらね、と伸ばし伸ばしにしているのだけど。

Top photo by adrian